挨拶って良い感じ。
台湾一つ目の宿であった最後の人は、台湾の学生だった。
日本名をもっているらしくコウカキといっていた。
どういう意味なのだろうか。
数日前から同室で会ったことは知っていて、挨拶をかわした数は断トツで多かった。
しかし、話した雰囲気や服装、仕草からはあまりアクティブな旅人という印象は受けず、どちらかというとインドアで学校では仲良し三人組でつるんでいる。
そんな印象を受けた。
そのこともあり、二人でどこかへ行くようなことはなく、彼とまともに話したのも滞在していた宿を離れるちょうど前夜だったので、彼をよく知ることも殆どかなわなかった。
ただ、愛想の良さは一級品で
ホテル内で、例えばシャワー室ですれ違えば
「Ah, hey ^^)」
とほほ笑んでくれたし、廊下ですれ違えば
「Ah, hey ^^)」
とほほ笑んでくれた。
会話といえば自己紹介とも胸を張って言えないくらいのものだった。
名前、国籍、年齢
そんなものだった。
ホテルの滞在日数やフライトの日時などを聞き、その相手と行動を共にするべきかどうか心の裡で探る。
バックパッカー定番のそのふるいに彼は引っかからなかった。
むしろ私が引っかからなかったのかもしれない。
翌日にはキュウフンに移動してしまうのだからそれもそのはずだ。
近づきすぎず遠すぎずの距離を保ち、愛想を振りまき気を使いあう関係。
それに認定された。
認定した。
互いに。
ホテルを発つ日の朝、シャワーへ向かう際、
すれ違ったコウカキはいつもの通り
「Ah, hey ^^)」
とほほ笑んだ。
今日でこの宿を出ることを伝えると、道中気を付けて楽しんでね、と親切な言葉をもらった。
温かいことばだったけれど、僕にとって印象強かったのはやはり
「Ah, hey ^^)」
だった。
“Ah, hey”と”道中~楽しんでね。”のどちらが心がこもっていたかといえばAh, heyな気がしてしまう。
後者は宿を先に出る他人を、
見送る者の社交辞令的な決まり文句に感じてしまったのかもしれない。
僕らの関係を視覚化して図形のようなものにあてはめたら、
きっと薄くて浅いかもしれない。
けれど、挨拶と笑顔を交わした数をグラフにあてはめたら、
きっと天野川くらいたくさんの点がつながって素敵だと思う。
今日は七月七日。
七夕。
だったらよかった。

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